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コラム(私の一言)

人と組織の潜在能力発揮につながる保安力自己評価を目指して(古澤俊宏/出光興産)

出光興産株式会社 安全環境(HSSE)・品質保証部 安全マネジメント課
保安力向上センター推進委員
古澤 俊宏

 保安力評価を行う目的は、「事業所での重大事故を未然防止する能力を維持・向上させること」と捉えている。その目的達成のためには、保安力評価を通じ、保安に関わる多くの職場の課長から事業所のトップや本社の関係者までが一致協力し、人や組織としての“潜在能力を発揮”し、従来の延長線上にはない、新たな価値基準での改善を図っていくことが基本ではないかと思う。
保安力評価のしくみや進め方を考える前に、そもそも一人ひとりが“潜在能力を発揮”し、“やる気を出して新たなことに挑戦する”ために何が大切と考えられるか、ヒントを得ている文献を紹介したい。様々な考え方があると思われるが、『行動科学入門』(嘉味田朝功著/産業能率短期大学出版部刊 昭和43年)に、“変化の激しい時代の中で、人は如何に生きて、潜在能力を発揮し自己実現していけるか”を丁寧にまとめている。その要点を抜粋したメモを後述するので、参照願いたい。

 著者の意図を簡潔に表すと、“人は様々な情報を得ながら、関係者と誠実かつ自由闊達に議論を尽くすことで、「事実の認識」と「価値基準」と「可能性の認識」を深めることができ、さらに改善等の行動を通じて潜在能力を発揮し自己実現できる”と私は解釈している。

私は、弊社の保安力(安全文化)評価の推進者として、上記の考え方も考慮し、試行を繰り返しながら自己評価のしくみ構築を進めている。
 弊社の自己評価のしくみを紹介すると、「事実の認識」と「価値基準」と「可能性の認識」を深められるよう、事業所の運転・設備・保安の3部門の長と本社の保安担当部門の長、及び本社製造技術部門の推進者だけでなく、できるだけ、事業所長、副所長や関係の深い他の運転部門の長にも自己評価に参加してもらっている。評価の内容としては、個人評価~事業所の強み・弱みの討議~改善の方向性の討議を1日で行っている。事業所長の意見に引っ張られないよう、議論を尽くすようにしている。その結果、製油所・事業所として放っておけない問題点と改善の方向性は、製油所・事業所の幹部含めて共有され、弱みの改善のための行動力は上がっていると感じている。
保安力評価を効果的に活用できるよう、今後も人や組織の潜在能力の発揮につながる工夫を考えていきたい。

以上


出典:「行動科学入門」(嘉味田朝功著/産業能率短期大学出版部刊 昭和43年)
第7章 現代人の生き方

1.事実についての基本的な考え方の枠組み
(1)自我像(自己認識)

 生まれて以来、意識無意識のうちに、環境との相互作用の過程で、環境からはね返ってきた情報の一つひとつを材料とし、自分なりにまとめあげ、「私はこういう人間だ」と組み立てたもの。
 自我像と自分自身が一致している人→潜在能力を発揮できる。(※)
  〃 と 〃  が一致しない人 →  〃  発揮できない
   → 他人のいいなり、他人に合わせる、自分を見失うこともあリ、自我の摩滅
   → 自殺に結びつくこともある。
(2)自己評価(後述「内面的短所を改善するための三つの段階」を参照)
 自分が自分をどう見ているか。他人が自分をどう見ているか。
 ・自己評価と他人からの評価がいつも食い違うなら、他人の評価の方が信頼される。
 ・自分の理想像が低いと、現在の自分を高く評価する傾向となる。
 ※潜在能力の発揮には、人間とは何かを知ることも大事。例えば、自分や他人に完壁を求めるのを止められ、何かに夢中にもなれる。
(3)自分を取り巻く環境についての知識
 環境について誤った考え方をすると、馬鹿げた決定をしたり、あるいは、非現実的な恐れをいだき、折角努力すれば得られるはずの機会を見逃してしまう。
 環境が与えてくれる機会と、環境が課している制約を正しく理解しなければならない。つまり、できること、できないこと、どこまでは自分が住んでいる(働いている)物理的、社会文化的環境に依存しているか、どこからは自由であるかを知っていなければならない。
 また、もう一つの環境として、周囲の他人は、どんな欲求を持っているか、 どんな問題に直面し、どうしてそういう行動をするのかを理解することが重要。つまり、その人の目を通して、ものごとを見る能力が必要。

‐内面的短所をカイゼンするための3つの段階‐
 第一段階:本当に自分を客観的に見てやろうという固い決意をする段階。
 第二段階:何を見たらいいか、自分のどういう面を見たらよいかを知る段階。
 第三段階:自分が見たものを受け入れようとする意志を持つ段階。
 注釈)第一段階の状態になるためには、自分の態度・行動が対人関係で効果的でないことを、体験を通して知リ、それを変えたいというモチベーションを起こすことが必要。誰でも、自己概念とすべての外界の事象を矛盾なく、自覚・解釈しようとする。

2.価値についての基本的な考え方
 価値とは、行動を決める際の選択の基準
(1)統合と信念
 自分の価値体系に確固たる信念を持っていること。そうなれば、言うことと行動することが一致し、周囲に不信感を与えない。また、どうでもいいことで葛藤することがなくなる。
 「首尾一貫しない信念」「独善的な信念」「信念の欠如」のいずれも、変化する世界の中で、効果的に行動し、自己実現へ向って成長するのに必要な指針とはなってくれない。
(2)現実主義と柔軟性
 ・ユートピアの中で生きているのではない。
 ・現実に生きている、そして我々の行動を正しい方向に導いてくれるような価値観でなければ意味がない
 ・価値体系は環境が変わるにつれて変えていくべきものである。
(3)意味と満足
 日々の生活にどれだけ満足しているか。自分の人生に意義を見出し、生きる目的を果たしていると感じることができれば、その人の価値体系は適切であると言える。

3.可能性についての前提
 自分が信じている価値と “可能性” によって、 人生の意義と方向が見える。
(1)目標と手段
 可能性つまり自分にどんな機会がありそうだと考えるかによって、目標の設定は変わってくる。 (同じ能力、同じ環境にいても)目標の設定レベルが異なるのは、意欲と目的意識の違いである。
(2)成長の可能性
 成長できる可能性をどう考えるかによって、本人の行動はずいぶん変わってくる。
(3)自己受容の重要性
 自分を変えるためには、まずありのままの白分を受け入れることが必要。欠点や弱点があったとしても課題指向的なやり方で、自分の問題と取組むことが大切。
 短所は人間としての基本的価値をだめにするものではないと考える。

以上

保安力向上センター