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コラム(私の一言)

ルール遵守(小川輝繁/横浜国立大学名誉教授)

横浜国立大学名誉教授 保安力向上センター副会長
小川 輝繁

 我々が社会生活を円滑に行うために、種々のルールを定め、これを遵守することが求められる。ルールには法令、組織内規定などのような成文化されたもののほかに、社会的に合意されているモラルのような成文化されていないものも含めて対応しなければならない。企業不祥事ではコンプライアンス問題として問題にされることが多い。「コンプライアンス」という言葉は、マネジメント用語では「法令遵守」として使われているが、企業倫理や社会倫理に反する行為をしても企業の信用に大きなダメージを与える。そのため、広義のコンプライアンスは法令遵守の他、モラルに反する行為をしないことも含まれる。
 従業員のルール違反は、産業災害の引き金になるケースが多い。企業あるいは従業員個人が遵守しなければならないルールには法令、社内規定および各種マニュアルがあるが、これらに違反する行為が行われていることがよく見られる。違反する要因には、次のようなものがある。

(1)ルールが机上の空論で作成されており、組織内の活動の実体にあっていないため、遵守が困難、
   あるいは遵守すると副作用で別の不具合が生じる可能性がある。
(2)従業員がルールを知らない、知っていたが忘れた、あるいはよく理解していない。
(3)ルールは知っているが、仕事の効率や組織の利益を優先する。

 (1)は、PDCAを回すマネージメントシステムがないか、あるいは有効に機能していなくて、硬直化した組織に多い。組織は有機的に活動しており、活動の実体や内外の環境も常に変動するので、ルールについて現状に合っているかについて定期的に見直しをする必要がある。また、緊急事態に対応するルールやマニュアルが不十分あるいは不備のため、ルールに則った行動ができなくて、災害を大きくするケースが多いので、異常事態に対するルールやマニュアルは特によく検討して作成する必要がある。(2)は、教育の問題である。ルールを全て教育し、理解させるには、時間がかかるので、新人は知らない、あるいは理解していないルールが多いのは当然である。知らない、あるいは理解していないルールについて必ず確認する意識を持たせ、自分の独断で行動しないように教育しなければならない。重要なことはルール遵守を徹底する意識を持たせる教育であり、またルールに疑問があれば、上司に疑問を投げかけやすい風土の醸成である。(3)はコーポレートガバナンスの問題であり、最近ではデータの改ざん問題で、マスコミをにぎわしている。組織としてルール遵守の啓発や監査がほとんど行われず、場合によっては黙認していることが、ルール違反を助長する。(3)のケースとしては次のようなものがある。

(イ)違反した方が仕事の効率がよく、また違反しても問題はないと自分で判断する。
(ロ)従前からルール違反が行われており、特に問題が生じていないので、ルール違反を引き継いで続ける。
(ハ)部署あるいはチームの長の判断で、組織的に違反を行う。

 違反は組織のためという風潮が強いと、違反是正の声を上げることが難しくなり、特に(ハ)の場合は、違反を外部に知らせると不利益を被る虞があるため、隠蔽されやすい。そのため、不正やルール違反を通報する窓口を設けるとともに、窓口の1つとして弁護士など外部に依頼している企業が多くなっている。
 冒頭にも述べたように、ルール違反は産業災害の引き金となるケースが多く、また不祥事を起こして企業の社会的信用の失墜を招くので、重要な課題である。基本的には従業員一人一人がルール違反の問題を真剣に考えるような風土を構築する努力が必要である。

保安力向上センター