海外製造拠点における安全の取り組みについて(山本卓/保安力向上センター)
保安力向上センター研究員
山本 卓
保安力向上センターが化学工業日報社の共催事業で実施している、産業安全フォーラムは、今年度はリモートでの実施となり、化学工業日報社の「ケミカルマテリアルJapan2020-ONLINE-」の一環として開催された。今年度の課題は「海外製造拠点における安全の取り組みについて」で、三宅淳巳横浜国立大学教授(安全工学会会長)に座長のもと、パネリストとして鈴木正治デンカ株式会社取締役専務執行役員、山本卓保安力向上センター研究員(元三井化学)、若倉正英保安力向上センター常務理事が参加した。パネルディスカッションの概要を紹介する。
三宅座長(安全工学会 会長 横浜国立大学学長補佐)
産業安全の海外展開、海外拠点の保安安全について産官学のそれぞれの立場で議論いただきたい。
鈴木氏(デンカ株式会社 専務執行役員)
海外の工場でトラブルや運営上の問題があった場合、日本から出張して対応していたが、コロナ禍で出張対応がむつかしい状況である。そのためリモートが主となっている。リモート業務に関する種々のシステムを導入して、おり、安全を含む業務のすすめ方が変化している。これは、コロナ禍で進化した点だと言える。
SDGsやESG経営はグローバルに事業を展開していく上で前提というようになっている。デンカの場合も海外の工場が多く、従業員も外国人が2~3割となっている。海外工場では従業員や経営のバックグラウンドが多様で文化を含めて考え方が異なっている。化学の基礎的知識をもつ従業員が少ない中で、工場を動かし、安全を確保するためには、国内と同様に安全を現場任せにすることはむつかしい。システムや設備を整備して、IoT、AIの活用は必要であるが、重要なのは、経営層が保安・安全のシステムの管理を強く意識することである。
海外では安全に関する国ごとのシステムがあるが、現場のマネジメントクラスには安全に関する体系的な知識の教育が必要である。
若倉(保安力向上センター常務理事)
保安力向上センター(以下センター)は化学産業をはじめ、会員のご支援により保安力向上のための活動を行っている。多くの会員企業の経営層の方から、海外事業所での安全文化の向上に対するセンターの寄与を要望されている。安全文化はそれぞれの国の国民性や法制度に影響され、国を超えた一律の安全文化をつくるのはなかなか難しい。企業にとっての安全の社会的価値を明確にし、経営トップにとどまらず、現場マネージャーまでのモチベーションを明確にすることが必要だ。
山本(保安力向上センター研究員)
日本の製造業の海外生産比率は、2000年頃には10%だったが、今は20~25%ぐらいまで上がっており、海外での安全・安定生産はきわめて重要である。東南アジアの産業労働者の死亡率は日本の4~5倍である。海外に進出する場合、安全のレベルや危険感受性が日本と異なる人たちと生産をすすめるという認識は重要である。
海外進出には、3つの形態がある。1つは現地企業との対等のジョイントベンチャー(JV)。2つめは日本側が100%出資。3つ目は現地企業の買収である。JVでは現地の安全文化と日本の安全文化との折り合いをつけていく。100%出資の場合は、日本のやり方を現地の従業員に理解してもらうため、マネージャークラスの人選が重要である。企業買収の場合は、買収を検討する際に現地企業の安全について十分に確認する必要がある。
安全文化を一気に変化させることはできないので、少なくとも工場内ではルールに従うという文化を醸成し、継続させることが望ましい。現地では現地語による教育が強く求められており、コロナ禍を契機に、Webの利用やEラーニングの活用も望まれる。
三宅座長
産業保安を進めるために、産官学の連携を強めて人材育成等、今後もご協力をお願いしたい。
保安力向上センター