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コラム(私の一言)

「最新!化学事故」から2019年を振り返る(若倉正英/保安力向上センター 常務理事)

保安力向上センター 常務理事
若倉 正英

保安力向上センターでは、国内外の公開情報から多くの産業事故事例を収集し、「最新!化学事故情報」として紹介している。
2019年1月から12月までの掲載事例は140件であり、発生件数のおおまかな分類を下図に示す。
最多は廃棄物関連の火災で約30%を占めている。特に、中国が受け入れを停止している廃プラスチックが国内に滞留しており、堆積した廃棄物による火災は、数年前から増加傾向が続いている。また、廃棄物を収集するパッカー車や廃棄物処理施設の事故も依然として発生し続けている。いずれの火災でも、蓄圧剤として可燃性ガスを含有するスプレー缶やリチウムボタン電池が火災の発生源となることが多いとのことである。
堆積廃棄物による蓄熱火災は、これまでも様々な原因により発生している。主要な火災例を以下に示す。

・シュレッダーダストの火災(1990年代)
 廃車の破砕処理で発生したシュレッダーダストを堆積保管する施設で、多くの火災が発生し、黒煙やたまった消火水による蚊の発生など、大きな社会問題となった。
 家電リサイクル法の施行後は家電由来のシュレッダーダストも火災の原因となった。
 当時はシュレッダーダスト中のアルミニウムや鉄分の含有量が高く、野積み状態では雨水と金属類の反応熱が火災の原因となった。現在はシュレッダーダストの金属分の除去が進み、保管状態の改善などによって火災は大きく減少している。

・木粉チップの火災(2000年以降)
 建設リサイクル法(2000年)施行後、パルプ原料や燃料を目的に木質建材の粉体化が進められた。しかし、建材由来の木質チップは品質が悪く、需要が発生せず、各地で堆積チップが野積みされ、それが火災を引き起こして周辺住民を悩ませることとなった。木材には油分が含有されているため、雨水や太陽光によって堆積中内に酸化熱や発酵熱が蓄積し火災となる。
 その後、廃材からの木質チップの製造が減少し、消防庁が蓄熱の抑制のために堆積保管の状態を規定することにより、火災の発生は減少した。

・ミックスメタルの火災(2005年前後)
 基盤や電気製品に含まれる非鉄金属類(ミックスメタル)は、有価物を分離してリサイクルするため中国に輸出されており、ミックスメタル保管場所や輸送船内での火災が頻発した。ミックスメタルにはプラスチックなど多量の可燃物が含まれるため、消火に多くの時間を要したり、船舶火災では放水消火が限定され、海路の運行に支障をきたすなどの問題が生じた。現在中国は受け入れを停止しているが、国内保管場所での火災はなくなっていない。

・災害廃棄物の火災(2011年)
 東日本大震災では膨大な災害廃棄物が発生し、堆積された廃棄物に含有される有機物の酸化や発酵、金属類と水との発熱反応などで、被災地で堆積された廃棄物由来の火災が頻発した時期があった。その後、環境省や消防庁が災害廃棄物の取り扱いに関するガイドラインを作成し、火災の発生は抑制された。

2019年には中国の事例が10%であったが、問題は被害者の規模が大きいことである。中国では死者10人以上の化学事故は重大産業事故として、国(応急管理部)の安全専門家による調査が行われる。昨年の重大事故は、3月江蘇省の化学工場での爆発火災(78人が死亡)、4月山東省の製薬工場の工事中の火災(社員10名死亡)、7月河南省の化学工場の爆発(15人の死亡報告後、情報を封鎖)、9月河南省の樹脂工場の火災(19人死亡)、12月湖南省の花火工場での爆発(13人が死亡 当初地方当局が死者数を7人と過少申告し、中央政府により処分を受けている)と、公開されている事例だけでも5件に上っている。
8月にはインドの花火工場でも爆発が起き、23人が死亡している。

国内では複数の死者を含む事故が3件報告されている。2月には大阪府の繊維工場で薬品タンク清掃中の作業者が硫化水素中毒で亡くなっている。また、6月には福井県の繊維工場の火災で4人が亡くなった。この火災では停電でシャッタが開かず、避難が遅れたといわれている。7月には大阪府の廃棄物運搬会社の倉庫で、スプレー缶内の蓄圧剤を取り出し中に爆発が起き、3人が亡くなった。

粉じん爆発(粉塵爆発が疑われる事例も含めて)もかなり発生している。2月の埼玉県の樹脂加工工場、7月の三重県の樹脂製造工場では樹脂粉体が、3月中国江蘇省の廃棄物コンテナ(7名死亡)、5月の福井県の金属加工工場、7月の新潟県の鍛造工場では金属粉体が、10月の兵庫県の工業素材製造工場ではシリコン粉体が爆発したとみられている。

これらの事故については保安力向上センターのホームページを参照いただきたい。
https://anzen.hoanryoku.jp/

保安力向上センター