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コラム(私の一言)

産業安全の中核人材育成の場としての産業安全塾(田村昌三/東京大学名誉教授)

東京大学名誉教授・保安力向上センター アドバイザリー委員会委員長
田村 昌三

 産業活動は製品の生産から輸送、貯蔵、消費、廃棄に至る全ライフサイクルにおいて、ヒト、社会、環境と調和したものでなければならず、安全は産業活動の基盤であるといえる。我が国は、国情からして技術立国を目指しており、安全をはじめ、環境、品質、安定生産に配慮したものづくりにおいて世界に先導性をもつ必要がある。
 しかしながら、近年の産業安全問題を見ると、かつて我が国の産業安全を支えてきた現場力の低下が心配される。今後、我が国が産業安全の確保・向上を図るためには、トップダウンの推進と現場力の再構築により我が国独自の展開を考えるべきであろう。
 そのためには、製造プロセスの安全の基本について理解を深めるとともに、製造プロセスの安全を推進するための産業安全環境の醸成に努めることが重要であり、それを担う中核人材の育成について産官学が一体となって考える必要がある。
 そうした要求に応えるものの一つとして、2012年に「産業安全論」が知の市場の一つの講義として開講した。2014年からは、その講座は石油・化学産業分野における安全を理解できる将来の経営層の育成および幅広い視野をもった企業の中核となる安全の専門家の育成を図ることを目的とし、石油化学工業協会、(一社)日本化学工業協会、石油連盟の運営により行うこととなった。受講生もそれらの業界に所属する企業から各社1人の30人を選定した。講義は1コマ2時間の討論重視の15コマで、産業安全の全体像を理解していただくため、「Ⅰ.石油・化学産業における安全」、「Ⅱ.安全の基本」、「Ⅲ.保安安全における行政の期待」、「Ⅳ.産業安全問題の要因と背景」、「Ⅴ.石油・化学産業における安全の向上」、「Ⅵ.安全教育・啓発の体系化と実践」、「Ⅶ.総合討論」を取り上げ、講師陣も石油・化学産業の経営層や安全の専門家に加えて、経済産業省素材産業課、精製備蓄課、高圧ガス保安室、消防庁保安室、厚生労働省化学物質対策課からのご参加をいただき、まさに産官学で行っている。
 こうした討論重視の講義運営、そして折に触れ行う講義後の意見交換会を通じて、受講生間のみならず講師を交えたネットワークが形成され、いまでは受講生のOB会等も活発な活動を展開している。そうしたなか、名称も「産業安全論」から「産業安全塾」に変わった。
 東京での「産業安全塾」は、「産業安全論」時代を含めて2018年で7年目を迎える。
 一方、四日市地区では2015年から、岡山地区では2016年から「産業安全塾」が開講している。
 このように、東京はじめ、四日市地区、岡山地区で「産業安全塾」が開講したことに伴い、産業安全については企業の壁を越えた産業安全の中核人材の育成と人材ネットワークの構築、さらには、産業安全に関する知識・技術・情報の共有化の道筋ができつつあるのではないかと思われる。
 この「産業安全塾」は石油・化学産業を対象とした人材育成プログラムであるが、こうした人材育成プロガラムが多くの産業分野でも展開し、我が国の産業安全全体のレベルアップに貢献することを期待したいものである。

保安力向上センター