7月の化学火災(混触による中毒や爆発、反応の熱的暴走などが発生)
災害情報センター(ADIC)のデータベース(http://www.adic.waseda.ac.jp/rise/ )ならびに、RISCAD(産業技術総合研究所が提供する事故データベース)のポータルサイト「さんぽのひろば」(hanpo.aist-riss.jp/sanponews/)の情報も参照し、アジア地区の重大事故を含め、産業分野の火災や爆発、漏洩などの事例を紹介する。
なお、本号から化学事故の紹介を毎月1回とさせていただきます。
専門家による、ひとことも参照ください。
7月27日「造影剤原薬製造工場で爆発」中国
中国浙江省の製薬会社の造影剤原薬製造工場で爆発が起き、作業中の従業員2人が死亡し、2人が負傷した。
ひとこと:汎用される造影剤としては硫酸バリウムがよく知られている。硫酸バリウムの製造では硫酸が使われるが、この工程の事故リスクについては、情報がみあたらない。
7月27日「化学工場の廃溶剤タンクで爆発・・反応の熱的暴走の可能性」ドイツ
ドイツレバークーゼンの化学工業団地内で爆発があり、従業員7人が死亡、31人が負傷した。工業団地内の廃溶剤等を焼却する施設の有機系溶剤を含む3塔の貯蔵タンク内の溶剤に着火した可能性。
タンク内の廃棄物が自己発熱し始めて温度が上昇し、反応の熱的暴走に至った可能性が指摘されている。なお、事故当初ダイオキシンの発生も危惧されたが、調査の結果、汚染レベルは低いと報告された。
7月26日「化学工場で薬品を混合中に爆発」兵庫県
兵庫県尼崎市の化学工場で火事があり、約40分後に消し止められたが、作業員3人が顔などに火傷を負った。塩酸を使ってレアメタルを溶解する作業中だった。
ひとこと:塩酸は金属との混触により水素を発生することが知られており、その取り扱いには注意が必要である。
7月24日「リサイクル工場で火災」宮崎県
宮崎県宮崎市のリサイクル工場で火災が発生した。出火したのは、紙や廃プラスチックによる固形燃料(RPF)を製造する工場であった。
ひとこと:RPFは廃プラスチックなどを加熱成型する工程があることから、成型後の冷却を怠るとPDF成分が自己発熱し、蓄熱火災が起きる可能性がある。
7月22日「廃品回収業者の金属資材置場で火災」茨木県
茨木県常総市のリサイクル工場の金属資材置場で火災が発生し、使用済みのリチウムイオン電池や廃家電など約50トン、木造平屋建ての倉庫3棟が焼けた。
ひとこと:リチウム電池による火災トラブルは製造、使用、廃棄リサイクルで増加しており、廃棄物再生処理施設での発煙、発火トラブルは年200〜300件を推移している。」
7月21日「大雨により保管中の炭化カルシウムの爆発火災」中国
河南省平頂山市で保管されていた炭化カルシウムが、大雨の影響で水と接触し爆発炎上し、11人が負傷した。
ひとこと:炭化カルシウム(カルシウムカーバイド)は水と反応してアセチレンを発生することはよく知られている。この反応は溶解アセチレンの製造に用いられるなど工業的にも有用であった。また、かつての縁日や屋台では生成するアセチレンのランプがよく使われていた。CaC2 + 2 H2O ⇒ C2H2
7月20日「大雨による溶融アルミニウムの爆発火災」中国
中国河南省の大雨で氾濫した河川の水が金属工場に流れ込み、工場内の溶融アルミニウムと接触し、水蒸気爆発が起きたとみられる。何度も爆発音が響き、大きな火柱が上がった。
7月19日「定修中の化学工場で火災」山口県
山口県周南市の化学工場のソーダ灰製造プラントから黒煙が上がった。同工場は定修で停止中だったが、炭酸化塔(高さ28メートル、直径3メートル)内の腐食防止ゴムが何らかの理由で燃えた。人、生産への影響はないとのことであった。炭酸化塔はアンモニアを含む塩酸と炭酸ガスを反応させる設備。
7月18日「工場火災の煙が高速道路に流入」静岡県
静岡県小山町の石油プラントやタンカーに使用するバルブなどを製造する工場で火災が発生した。工場は休業日で、工事業者が同工場内で金属の切断作業中で、作業者1名が煙を吸って病院に搬送され、火災の煙が東名高速道路に流れ込んだが、交通障害には至らなかった。
7月17日「無人運転中のプラスチック工場で火災」岐阜県
岐阜県美濃市のプラスチック加工製造業の工場から出火、工場兼事務所約650平方メートルを焼損した。出火当時、工場内の一部の機械が稼働していたが、無人だった。
7月12日「原子力発電所での混触による中毒事故」宮城県
宮城県女川町の原子力発電所で協力会社の作業者7人が硫化水素中毒した。防護服などを洗濯した洗濯廃液に残留する洗剤成分の除去のため硫酸が混合されており、廃液中の有機物と反応して硫化水素が発生する可能性がある。発生した硫化水素が配管を通じて別の建屋に流入し、作業員7名が吸入し、硫化水素中毒となった可能性がある。
ひとこと:硫酸は硫化物などとの混触で猛毒の硫化水素を発生することが知られている。
7月11日「工場の機械整備中に漏電火災」福岡県
福岡県北九州市の冷凍食品工場で火災が発生した。工場は休業日で、従業員が工場2階で機械の保全作業をしていた。作業中に突然停電が起きて、天井裏の排気ダクト付近から出火し、工場の2階部分942平方メートルが焼けた。天井裏の被覆配線からの漏電の可能性。
7月7日「製紙工場の木材チップサイロでの火災」秋田県
秋田県秋田市のコピー用紙などを製造している工場の、木材チップのサイロが燃焼した。チップを運搬するベルトコンベアから出火し、サイロに延焼した可能性がある。サイロやベルトコンベアが焼損した。チップの搬出に時間がかかり、鎮火に1週間以上を要した。
7月6日「プリンタトナーの粉じん爆発」長野県
長野県辰野市のプリンタ関連工場のプリンタ用トナーを乾燥させる設備で爆発音とともに出火したが、すぐに消し止められた。静電気により粉じん爆発が起きたものとみられる。工場の一部と機械などが焼損した。
ひとこと:プリンタのトナーは品質向上に伴い微粒子化が進み、静電気により容易に着火し、粉じん爆発を起こすことがある。粉じん爆発の防止では、静電気除去と日常的な清掃、粉じんの危険性に対する教育が必要である。
7月5日「樹脂製造工場で爆発火災・・消防士が死亡」タイ
タイ国バンコックの発泡樹脂製造工場で爆発火災が発生し、消火活動中の消防士1名が死亡、少なくとも62名が負傷し、周辺の住宅も爆風や飛散物で被害が生じた。また、工場はスチレンを保管しており、工場から半径1kmの範囲で高濃度のスチレンが検出されたため、当局が周辺住民に避難勧告を出した。原因は現在不明とのこと。
工場周辺が住宅地であったことから、政府は再建する場合は工場団地への移転をさせることとした。
7月4日「半導体工場の汚水槽清掃中の硫化水素中毒で4人死亡」台湾
台湾宜蘭県半導体工場の汚水槽清掃中に硫化水素中毒が発生し、救助に当った3人を含めて4人が死亡した。作業前に硫化水素濃度を測り、換気を実施するといった手順が定められていたが、実施していなかった。
ひとこと:低濃度酸素の空気や高濃度硫化水素を吸引することにより脳機能が停止して、その場から退避ができずに死に至る可能性があり、救援に当たった人の被災率が極めて高い労働災害である。
7月2日「製油所で爆発、火災」ルーマニア
ルーマニア黒海製油所の軽油水素化処理プラントで爆発、火災が発生し、1名が死亡し、5名が負傷した。運営会社は事故後、安全対策を強化するための解決策や従業員継続雇用について、従業員組合と話し合っているとのことである。
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